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広島高等裁判所松江支部 昭和28年(ネ)49号 判決

控訴代理人は控訴の趣旨として主文同旨の判決を求め、被控訴人山田安蔵外五一名代理人角田正太郎、被控訴人山崎嘉一代理人角田正太郎、中山淳太郎及び長砂鹿蔵、被控訴人浅井君江外四名代理人中山淳太郎及び長砂鹿蔵(当事者の表示及びその代理関係は本判決冒頭当事者欄記載のとおり、以下同じ)は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の主張は当審で控訴代理人及び被控訴代理人角田正太郎においてそれぞれ次のとおり述べた外原判決事実摘示欄記載のとおり(但し末尾添付の目録及び別表を除く)であるからここにこれを引用する。

控訴代理人の陳述

第一、仮りに山岡要平らの申立が陳情ではなく施行規程に対する異議申立であるとしても鳥取県知事においてこれを都市計画審議会の議に附するかどうかについて自由裁量権を有するものと解すべきである。又山岡要平らの申立は法律上不能なことを求める内容のものである。だから鳥取県知事においてこれを都市計画審議会の議に附さないで設計書及び施行規程を認可したことについて聊かの違法のかどもない。従つて認可は適法なものであり施行規程は有効である。

第二、異議の申立を都市計画審議会の議に附した後施行規程を認可すべきだと言うようなことは仮りに認可の瑕疵であるとしてもそれは単に認可の時期の制限に違反したにとどまり認可そのものを全然無効にする瑕疵ではないと言わねばならぬ。されば鳥取県知事において山岡要平らの申立を都市計画審議会の議に附さないで施行規程を認可したからと言つて施行規程の有効であることを失わない。

第三、耕地整理法は土地改良法施行法第一条によつて廃止されたのではあるが、同法第四条には「この法律施行前にした行為に対する罰則の適用についてはこの法律施行後でも、耕地整理法の規定はなおその効力を有する。この法律施行前にした行為に対する異議の申立、訴願、訴訟又は耕地整理法第八十七条の規定による補償金額決定の請求について、及び他の法令において準用される範囲内においても、また同様とする」旨規定しているのであるから、同規定にいう他の法令に該当する都市計画法第一二条第二項によつて、土地区画整理に準用される範囲内において、耕地整理法の規定はなお有効である。

被控訴代理人角田正太郎の陳述

第一、本件土地区画整理に対し廃止となつておる耕地整理法を準用したことは違法である。即ち土地改良法施行法第一条により耕地整理法は廃止となつておるから、都市計画法による土地区画整理にしても土地改良法施行法第二条により同施行法施行の日たる昭和二四年八月四日現在施行中のものは耕地整理法が準用されるけれども、同日より後において新たに始められる土地区画整理については耕地整理法の準用はあり得ない。都市計画法又はその他の法律で都市計画法による土地区画整理についてのみは耕地整理法廃止後も依然として耕地整理法を準用する旨の特別規定は存しない。されば耕地整理法は完全に廃止となつておるにかゝわらずこれが存続するものとしてなした本件土地区画整理に関する一切の処分は無効である。

第二、控訴代理人の主張中自己の主張に反する部分はこれを否認する。殊に山岡要平らの異議申立ては法律上不能なことを求める内容のものではない。又鳥取県知事が山岡要平らの異議申立を都市計画審議会の議に附さなかつた瑕疵は重大なものであつて認可を無効とする。従つて施行規定は無効である(証拠省略)。

三、理  由

被控訴人らが、いずれも鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行地域内に土地を所有し、控訴人から本件各換地予定地指定処分を受けたものであること、控訴人が右土地区画整理施行者であること、鳥取県知事が昭和二七年五月二八日鳥取県告示第二七四号で鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理設計書及び施行規程を認可したこと、鳥取県が市役所を縦覧場所に指定しなかつたこと、県庁内の総覧場所に「縦覧場所」なる表示をしなかつたことはいずれも当事者間に争がない。

一、先ず控訴人が本件設計書及び施行規程を適法に縦覧に供したか否かの争点について当裁判所は縦覧は適法に為されたものと判断するがその理由は成立に争ない甲第二一、二二号証、当審証人米原稔、山根益衛及び森本英一郎の供述のうちそれぞれ原審の認定に反する部分を措信しないとの点を附加する外原判決に説示するところと同一であるからこゝにこれを引用する。

二、次に被控訴代理人は訴外山岡要平、同山岡君が連名で都市計画決施行令第一七条第二項に従い前記施行規程第三条に対し異議の申立をしたのにかゝわらず控訴人が同令第一七条に従いこれを都市計画審議会の議決に付することなく放任したのは違法であるから、控訴人が認可した右設計書及び施行規程は無効であると主張するのでこの点について判断する。訴外山岡要平、山岡君がいずれも本件土地区画整理域内の土地所有者で前記施行令第一七条第二項に定められた異議申立適格者であること、右両名が連名で昭和二七年五月一八日頃(異議申出期間内)に異議申立書と題する書面を控訴人宛に提出したことは当事者間に争がない。そして成立に争のない甲第二号証の二に原審及び当審における証人中西成城の各証言を綜合すれば、訴外山岡要平らの提出した右異議申立書と題する書面は甲第二号証の二であること、但しその文言は三、1の末項「依つて前記の実情を充分御斟酌の上現実測の結果を基礎として」との訂正部分が「依つて前記区画整理施行規程第三条を変更し現地実測の結果を基礎として」と書いてあつたことを認めることができる。而して訂正前の右甲第二号証の二の表題及び文面等を客観的に観察すれば、訴外山岡要平らの主観的な意図はともかく、又訴外山岡君は別として少くとも山岡要平に関する限り右施行規程第三条に対する異議であつたものと解せられる。次に原審における証人中西成城、入江昶及び橋浦雄太郎の各証言、当審における証人中西成城、橋浦雄太郎、石井稔及び山岡宏行の各証言を綜合すれば鳥取火災復興事務所長たる訴外中西成城は昭和二七年五月一八日頃その事務所において訴外山岡要平らより提出された訂正前の右甲第二号証の二を閲覧し、同書面記載事項のうち三、異議申立事項の1の文意を2乃至4の趣旨をも併せ考えた結果果して同書面が右施行規程に対する異議申立であるかそれとも山岡要平ら個人の土地の換地に対する陳情であるかにつき疑問を持つたこと、ところがその際たまたま鳥取市長入江昶が来訪したので中西成城は右書面を同市長に見せその疑問の点を話し申立人らの真意を聞いて貰うように依頼したこと、そこで同市長はこれを承諾の上右書面を預かつて市庁舎に帰り、総務課長橋浦雄太郎に右事情を話し山岡要平らの真意を聞いて来るように命じ、もし山岡要平らの真意が前示施行規程に対する異議申立ではなく単なる山岡要平ら個人の土地の換地に対する陳情であるならこのように文面を訂正してもらつて来いと言つて訂正文言を記載したメモと前示甲第二号証の二(訂正前のもの)を橋浦総務課長に手交したこと、同総務課長は山岡家を訪れ山岡要平及び君の両名に面接し、その真意を確めたところ同人らは右甲第二号証の二の文言の客観的意義はとにかく、自分らの主観的意図としては、前示施行規程に対する異議申立をするつもりではなく、自分ら個人の土地の換地に対する陳情の趣旨を強調するため前示「依つて前記区画整理施行規程第三条を変更し現地実測の結果を基礎として」なる文言を記載していたに過ぎないし、鳥取大火災後の土地区画整理事業が迅速に且つ円滑に進行することはもとより願うところであるとの趣意を表明して喜んで右文言の訂正を承諾し、市長依頼の趣旨に従つて前叙のとおり文言を訂正したこと、そのかわり山岡個人の土地の換地については右書面陳情の趣旨に従つて善処されたい旨くれぐれも依頼したこと、橋浦総務課長は右訂正文書を持帰り事情を復命してこれを入江市長に手渡したところ、同市長は右事情を説明すると共に更にこれをその頃中西復興事務所長に返還したことを認めることができる。

右認定に牴触する成立に争のない甲第一〇、一四、一五号証の記載部分、当審証人森本英一郎及び山根益衛の証言部分は措信しない。そうだとすれば前示甲第二号証の二は訴外山岡要平らにより提出された当初はとにかく、訂正後においては施行規程に対する異議申立の趣旨は失われて単なる山岡個人の土地の換地に対する陳情としての申立書となつたことは明らかで表題その他に「異議申立」なる字句が残存しているけれどもこれは陳情と読みかえるべきであること前叙訂正事情に照し言うをまたないところであるから控訴人においてこれを陳情書として扱い都市計画審議会の議に付さなかつたからと言つて何らの違法は存しない。

凡そ官公吏はその選任の基礎が国民や住民にあり、国民や住民の利益のために誠心誠意その活動をなすべきものであり、いやしくも自己の便宜のため法律の智識にうとい国民や住民の弱点に乗じ、いわゆる政治的解決に名を藉つて法によつて認められたそれらの者の権利を奪うようなことは厳につゝしまねばならぬことは当然である。これを本件についてみるに、火災の復興を迅速に行わねばならぬことは鳥取市民一般の熱望するところであつたであろうことは容易に想像されるところであり復興事業施行の衝に当る者がこの市民の熱望にこたえる為に異議の申立等により事業の急速な進展が妨げられることを極力避けようとする心理に駆られたであろうこともこれ亦想像に難くないし、このような心理に駆られたとしてもその事自体は格別非難しないのであるから前叙認定のような状況の下に本件異議申立書が訂正されたものである以上、その間中西復興事務所長、入江市長の取つた措置にあえて不当として非難すべき点は存しない。況んや当審証人山岡宏行及び石井稔の証言によれば訴外山岡要平は一般市民に比し法律的素養もありその社会的地位、財力もあつたことが窺われ、本件異議申立書の訂正を拒むことは自由にできたであろうと想像されるので、中西復興事務所長らの措置を目して法律的智識にうとい国民の弱点に乗じその権利を奪つたものと言うことはあたらない。

三、角田被控訴代理人は耕地整理法は現在廃止となつておるにかゝわらずこれが存続するものとして本件土地区画整理に対し耕地整理法を準用したことは違法であり従て本件土地区画整理に関する一切の処分は無効であると主張するのでこの点について判断する。なる程耕地整理法は土地改良法施行法第一条によつて一般的には廃止されたのであるが、同法第四条には「この法律施行前にした行為に対する罰則の適用についてはこの法律施行後でも、耕地整理法の規定はなおその効力を有する。この法律施行前にした行為に対する異議の申立、訴願、訴訟又は耕地整理法第八十七条の規定による補償金額決定の請求について、及び他の法令において準用される範囲内においても、また同様とする」旨規定しておるのであるから、同規定にいう他の法令に該当する都市計画法第一二条第二項によつて、土地区画整理に準用される範囲内において、耕地整理法の規定はなお現在有効に存続しておるものと解すべきである。されば耕地整理法が既に失効したことを前提として本件土地区画整理に関する一切の処分は無効であるとの被控訴代理人の主張は採用するを得ない。

四、更に右被控訴代理人は前示施行規程第三条は憲法第二九条に違反し無効であり従つて土地台帳地積より実測地積の多い土地所有者に対する関係においては本件換地予定地指定処分は無効であると主張するのでこの点について判断する。土地台帳制度は土地の実体を把握登録し国の種々の行政作用の便益に供せんがために設けられた制度であること、土地台帳法は土地台帳に登録した地積と実測地積とは一致することを前提とし、もし両者に相違あることが発見されたならば申請又は職権によつて台帳地積が実測地積に一致せしめられるよう訂正されること同法の規定によつて明かである。一方、原審証人入江昶の証言によれば鳥取市の火災による罹災面積は四〇万坪、罹災家屋は約五、〇〇〇戸、罹災世帯約五、〇〇〇戸、罹災者数約二五、〇〇〇人、区画整理地積五三二、〇〇〇坪であつて罹災者数はもとより一般市民も一刻も早く火災の復旧、区画整理の実施を熱望していたことを認めることができる。かような状況の下に一々実測地積を基礎として本件土地区画整理を施行することは時、人手、費用何れの点から言つても不可能をしいるもので却つて公共の福祉に適合するゆえんでないことは極めて明かである。されば鳥取県知事が実測主張をとらず、前示土地台帳法の精神及び鳥取市の火災の状況等を考量して定めた前示施行規程第三条は何ら憲法第二九条に違反するものではない。従つて有効なる右施行規程第三条を基礎としてなされた被控訴代理人主張の被控訴人松岡重夫外四名に対する別表記載の換地予定地指定処分は有効である。従つてこの点に関する被控訴代理人の主張も採用するを得ない。

以上の次第であつて控訴人が別紙目録記載のとおり被控訴人らの各所有土地に対しなした各換地予定地指定処分はいづれも有効であり、これが無効確認を求める被控訴人らの本件請求は失当として排斥を免れない。さればこれと反対の結論に出た原判決は不当であるから民事訴訟法第三八六条を適用してこれを取消し、訴訟費用の負担について同法第八九条第九三条第一項本文第九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 平井林 藤間忠顕 組原政男)

(別紙目録省略)

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